Web制作の現場で「デザインシステム」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。効率的なUI/UXデザインと開発を実現するための強力なツールとして、このデザインシステムは制作に関わる人のあいだで大きな注目を集めています。
本記事では、デザインシステムの概念から実践的な作り方、さらには具体的な事例まで、Web制作に関心のある企業担当者の方々に向けて、デザインシステムの全体像を解説していきます。
デザインシステムの導入は、ブランドアイデンティティの一貫性を保ちながら、効率的な開発とユーザビリティの向上を同時に実現できる特徴があります。今回は、このデザインシステムがもたらす価値と、その構築・運用のノウハウを、事例を交えながら学んでいきましょう。
デザインシステムとは
デザインシステムは、効率的かつ一貫性のあるデザイン制作を可能にする包括的なツールです。このセクションでは、デザインシステムの定義と主要な構成要素について解説し、その全体像を明らかにします。
デザインシステムの定義
デザインシステムとは、Webサイトやアプリケーションの設計・開発において、一貫性のあるユーザー体験を提供するための包括的なガイドラインとコンポーネントの集合体です。単なるスタイルガイドやUIキットを超えて、デザイン原則、再利用可能なコンポーネント、デザインパターン、そしてそれらの使用方法を定義したガイドラインを含みます。
デザインシステムの主な目的は以下の通りです。
・デザインの一貫性を保つ
・開発プロセスを効率化する
・チーム間のコミュニケーションを円滑にする
・ブランドアイデンティティを強化する
デザインシステムの構成要素
効果的なデザインシステムは、以下のような要素で構成されています。
1) デザイン原則:ブランドの価値観やデザインの方向性を示すガイドライン
2) コンポーネントライブラリ:ボタン、フォーム、ナビゲーションなどの再利用可能なUI要素
3) パターンライブラリ:よく使用されるUIパターンや相互作用のコレクション
4) スタイルガイド:カラーパレット、タイポグラフィ、アイコンセットなどの視覚的要素の定義
5) ドキュメンテーション:各要素の使用方法や実装ガイドライン
6) デザイントークン:色、間隔、フォントサイズなどのデザイン決定を抽象化した値
これらの要素が有機的に結合することで、一貫性のあるユーザー体験を効率的に作り出すことが可能になります。
デザインシステムの重要性
デザインシステム導入がいかに重要なのか、具体的なメリットを探ります。ユーザー体験の向上、開発効率の改善、チーム間連携の強化など、組織にもたらす価値を事例と共に紹介します。
一貫性のあるユーザー体験の提供
デザインシステムの最大の利点は、ユーザー体験の一貫性を確保できることです。統一されたデザイン言語を使用することで、ユーザーは直感的にインターフェースを理解し、操作することができます。これは以下のような効果をもたらします。
・ユーザーの学習曲線の短縮
・ブランドの認知度と信頼性の向上
・ユーザー満足度の増加
開発効率の向上
デザインシステムを導入することで、開発プロセスが大幅に効率化されます。
・再利用可能なコンポーネントにより、開発時間の短縮
・デザインの意思決定プロセスの簡素化
・コードの再利用性向上による保守性の改善
コラボレーションの促進
デザインシステムは、デザイナーと開発者の間のコミュニケーションを円滑にします。
・共通言語の確立による誤解の減少
・デザインの意図と実装の整合性の向上
・クロスファンクショナルなチーム間の協力促進
デザインシステムの作り方
現状分析からコンポーネント設計、スタイルガイド作成、デザイン言語確立まで、デザインシステムの構築プロセスを段階的に解説します。
現状分析と目標設定
デザインシステムの構築を始める前に、現状の分析と明確な目標設定が不可欠です。
1. 既存のデザイン資産の棚卸し
2. 現在のデザインプロセスの分析
3. 組織のニーズと課題の特定
4. デザインシステム導入の具体的な目標設定
目標設定の例
・デザインの一貫性を30%向上させる
・新機能の開発時間を20%短縮する
・デザイン決定にかかる時間を50%削減する
コンポーネントの設計
効果的なコンポーネント設計は、デザインシステムの中核を成します。
1. アトミックデザインの原則に基づいたコンポーネントの階層化
2. 再利用性と柔軟性を考慮したモジュラー設計
3. アクセシビリティガイドラインの遵守
4. レスポンシブデザインへの対応
例えば、ボタンコンポーネントを設計する際は、以下の要素を考慮します。
・サイズバリエーション(小、中、大)
・状態(通常、ホバー、アクティブ、無効)
・色のバリエーション(プライマリ、セカンダリ、警告)
・アイコンの有無
スタイルガイドの作成
スタイルガイドは、視覚的な一貫性を確保するための重要なツールです。
1. カラーパレットの定義
2. タイポグラフィシステムの確立
3. アイコンセットの統一
4. 余白とレイアウトルールの設定
デザイン言語の確立
デザイン言語は、ブランドのビジュアルアイデンティティとユーザー体験の基盤となります。
1. ブランドの価値観とビジョンの反映
2. ユーザーのニーズと期待に応える設計原則の策定
3. 感情的な共感を生み出す視覚的要素の定義
4. 一貫したインタラクションパターンの確立
デザインシステムの実装と運用
適切なツールの選択、デザイナーと開発者の協働促進、継続的な更新と改善のプロセスなど、デザインシステムを実際のプロジェクトに落とし込む方法を解説します。
デザインツールの選択
適切なデザインツールの選択は、デザインシステムの効果的な実装と運用に不可欠です。Figma、Sketch、Adobe XDなどのツールの特徴を比較し、チームのニーズに合ったものを選択しましょう。
コード化と開発者との連携
デザインシステムを実際のプロダクトに反映させるためには、デザイナーと開発者の緊密な連携が必要です。
1. デザイントークンのコード化
2. コンポーネントライブラリの開発
3. ドキュメンテーションの整備
4. バージョン管理と配布の仕組み作り
継続的な更新と改善
デザインシステムは生き物のように進化し続ける必要があります。
1. フィードバックループの確立
2. パフォーマンス指標の監視
3. 新しい技術やトレンドへの対応
4. ガバナンス体制の整備
デザインシステムの事例紹介
国内でも、すでにいくつかの企業や組織がデザインシステムを導入しています。ここでは、日本の代表的なデザインシステムの事例を紹介します。
デジタル庁デザインシステム
デジタル庁が開発した本システムは、行政サービスの一貫性と使いやすさを重視し、省庁のデジタルサービス全体の品質向上と開発効率化を実現しています。オープンソースで公開されており、他の行政機関、地方自治体でも活用可能な点が特徴です。
URL: https://www.digital.go.jp/policies/servicedesign/designsystem
LINE Design System
多様なサービスに対応する柔軟性と一貫性を両立し、LINEアプリ、LINE MUSIC、LINEマンガなど多岐にわたるサービスで統一されたUXをサイトで提供しています。グローバル展開を視野に入れた多言語・多文化対応も特筆すべき点です。
URL: https://designsystem.line.me
freee "vibes"
freeeの"vibes"は、同社がこれまで培ってきたアクセシビリティをはじめとするフロントエンド開発のノウハウが詰まったデザインシステムです。社会全体にアクセシビリティ向上に向けた取り組みが広がることを目指しています。
URL: https://vibes.freee.co.jp/
Ameba "Spindle"
Amebaの"Spindle"は、「Amebaらしさ」を一貫してユーザーに届けるための仕組み。「Amebaらしさ」がユーザーに届き、共感が生まれることで、サービスの信頼へとつながっていくことを目指し、そのためのツールやガイドラインが揃っています。
URL: https://spindle.ameba.design
SmartHR Design System
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」のサービスに関わるすべての人がSmartHRらしい表現をするための基準や素材をまとめたものが「SmartHR Design System」です。開発・制作の専門家以外の人でも理解しやすいよう、丁寧に説明されています。
ラクスル "kamii"
ラクスルが公開している"kamii"は、デザイン原則、デザイントークン、アイコン、CSS、Vueなどのメニューが充実。作っても使われずに終わることのないように、開発しながら管理・維持していけるような仕組み化を目指しています。
URL: https://zeroheight.com/731d8c745/p/018df4-kamii--raksul-design-system
カオナビ "sugao"
人材マネジメントプラットフォーム「カオナビ」のプロダクトデザインに特化したUI/UXデザインの情報を提供。ユーザーに使いやすい体験を提供し、開発者・デザイナーには再利用しやすいコンポーネントの構築を目標としています。
URL: https://brand.kaonavi.jp/sugao
まとめ:デザインシステムが拓くWeb制作の未来
今後のWeb制作において、デザインシステムはますます重要な役割を果たすでしょう。以下のような展望が考えられます。
◎AI技術との融合
AI技術の進化により、デザインシステムの構築や管理がさらに効率化される可能性があります。例えば、ユーザー行動データに基づいて最適なUIコンポーネントを提案したり、デザインの一貫性をAIがチェックしたりすることが可能になるかもしれません。
◎新たなインターフェース技術への対応
VRやAR、音声インターフェースなど、新たな技術に対応したデザインシステムの開発が進むでしょう。これにより、マルチモーダルな体験を一貫して提供することが可能になります。
◎パーソナライゼーションとの両立
ユーザー個々のニーズに合わせたカスタマイズと、ブランドの一貫性を両立させるデザインシステムの重要性が増すでしょう。柔軟性を持ちつつも、核となるブランドアイデンティティを保持するシステムが求められます。
◎グローバル化への対応
多言語・多文化に対応したデザインシステムの需要が高まると予想されます。文化的な配慮を含めた、よりインクルーシブなデザインシステムの構築が課題となるでしょう。
◎サステナビリティへの配慮
環境に配慮したデザイン(例:ダークモードによる省電力化)や、長期的に持続可能なデザインシステムの構築が重要視されるでしょう。
企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する中で、効果的なデザインシステムの構築と運用は、競争力の源泉となります。Web制作に関わる全ての方々に、デザインシステムへの理解を深め、その導入を検討することをお勧めします。
デザインシステムは、テクノロジーとデザインの融合により、より良いユーザー体験を創造するための強力なツールです。同時に、それは組織の文化や働き方にも大きな影響を与えます。デザイナーと開発者の協働を促進し、クロスファンクショナルなチーム作りを支援します。
最後に、デザインシステムの導入は一朝一夕にはいきません。段階的なアプローチと継続的な改善が鍵となります。小さな成功を積み重ね、組織全体の理解と協力を得ながら、徐々にシステムを拡大していくことが重要です。
本記事が、皆さまのデザインシステム導入への第一歩となり、より効率的で魅力的なWeb制作の実現に寄与することを願っています。デザインシステムという強力なツールを活用し、ユーザーとブランドの双方に価値をもたらす、革新的なデジタル体験を創造していきましょう。
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